2012年12月17日月曜日

中国に対するには「華人」の知恵を ASEANと連携し“毅然”とした姿勢を

日本が好きで、ほぼ毎年、日本各地を旅行していたシンガポール人の友人が、今年は日本には行かないと言ってきた。シンガポールに住む華人である彼は、最近では車を借りて家族で富山や岐阜などの地方都市を回るのを楽しみにしていた。ところが、最近の中国での反日暴動のニュースを見て、日本に行くと危険ではないかと周囲から言われたのだという。

「日本は安全だし、中国人だからといって襲われることはない」と説明したものの、彼の不安は払拭できなかった。

◆経済と政治は別

実はこうした不安を持つ人は多い。シンガポールに限らず、マレーシアやインドネシア、ベトナムをはじめ東南アジア地域には、多くの華人が暮らす。ほとんどが何世代にもわたりそこに暮らし、根付いている。多くの国で華人は経済的な影響力が強く、各国で重要な地位についている。

彼らは確かにルーツをたどれば中国であり、いわゆる北京語を話すが、だからといって現在の中国を支持するわけではない。経済面でのつながりはともかく、政治・外交的には共産党一党独裁で傲慢さが目立つ現在の中国は警戒対象だ。

マレーシアのナジブ首相やフィリピンのアキノ大統領も華人だが、南シナ海の領有権問題では中国に一切譲ることがない。ミャンマーのテイン・セイン大統領も、ルーツは華人だが、中国が進めていたダム建設中止などを打ち出すなど、中国一辺倒ではない。

中国が1978年に改革開放政策を採って以降、東南アジアへの中国系の移民は増え、経済成長著しい昨今、そうした動きはさらに加速した。東南アジア側も中国との関係を深めることが自国の成長につながるとみて、積極的に移民を受け入れてきた。

中でも積極的だったのがシンガポールだ。国の成長を維持するには外国人労働者を受け入れるべきだ、とするリー・クアンユー元首相の考えの下、2000年に約400万人だった人口は10年余りで約520万人に増加し、うち150万人近くを移民が占め、そのほとんどが中国からだ。

ところが、この移民が評判が悪い。法律を整備し、順守することで外国投資を受け入れてきたシンガポールだが、「法治国家」ならぬ「人治国家」たる中国本土から来た新移民はマナーなどどこ吹く風。まるで中国領土のように振る舞い、心あるシンガポール人は眉をひそめた。

高級スポーツカーに乗った中国人投資家が、信号を無視して交差点に突っ込み、タクシーに激突、運転手と乗客の日本人女性が死亡した事故は、移民政策に反対する多くのシンガポール人の怒りを呼び、今も動画サイトで繰り返し再生される。

◆毅然とすること

尖閣諸島をめぐり、中国が反日姿勢を強め、デモなどが繰り返されたことについて、東南アジア各国のメディアは事実関係を報じるだけで、日本を支持する姿勢を打ち出したりしてはいない。

もっとも、日本もこれまでは南シナ海のスプラトリー、パーセル諸島をはじめとする中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)各国との領有権問題について、旗幟(きし)を鮮明にしてこなかった。フィリピンのミスチーフ環礁への中国の「侵略」も、ベトナム沖の天然ガスの鉱区に中国企業が勝手に鉱区を設定し、国際入札を実施したときも日本政府は中国批判を控えてきた。

これからはASEAN各国、さらにオーストラリアや西太平洋諸国と連携し、中国に対して毅然(きぜん)とした姿勢を示すことが大切だ。そして、ときにはアジア各国の華人の知恵を借りるのがいい。

以前、シンガポールの華人ビジネスマンが言っていたことを思い出す。「われわれシンガポール人でも中国では失敗するのに、日本人が中国とうまくやれるわけがない。だから、一緒にやろう」(編集委員 宮野弘之)

リソース:産経ニュース

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