2013年2月2日土曜日

やる気のある中国人社員が去っていく 

彼らを使いこなすために考えるべきこと

現在、中国出張中。日本の銀行関係者や企業関係者を連れて、長江デルタや山東省、安徽省などの地方都市を超過密スケジュールで訪問しているところだ。同行する日本人のほぼ全員が上海や北京を訪問した経験をもっているが、地方都市を訪ねた経験はなかった。その分、みんなが地方都市での発見とビジネスチャンスに興奮を覚えている。中には、その場で中国の地方企業が私たちを追いかけてきて、次の訪問先の都市で商談を始めたケースもあった。

中国人社員が辞めるのは 果たして給与だけのせいか

嬉しい発見がある一方、苦虫をかみつぶしたような表情を見せ、苦悩する企業関係者もいた。新しいビジネスチャンスが現れているにもかかわらず、日本本社では中国語で対応できる体制ができていないという悩みを抱えているからだ。その企業は岐阜に本社を持つリトルガリバー的な存在だ。業界では名が通っている。関係者の話によると、つい最近まで実は本社に中国人社員が2人勤務していた。だが、2人とも会社を去ってしまった。「中国東北の出身で、大連に帰ってしまった」という。つまり、日本企業の就職を蹴ってまで、機会を求めるために大連に帰ったのである。
「原因は?」と私がさらに質問すると、「近くにトヨタが本社を構える名古屋があり、給与水準は岐阜より高い。岐阜の地方都市を去った中国人留学生の大半はトヨタなどの大手に入ってしまう」と関係者が分析する。「地方都市の給料は安いけど、地元の物価もその分安いのだが」と関係者が悔やむ。

給料の問題も一因であろう。関係者の悔やむ気持ちは分からなくもない。しかし、私はそれを主因とは思わない。ちょうど私の周りに、岐阜あたりでは知られた、とある中堅ドラッグストアに勤めていたが、つい最近会社員という安定した生活を蹴ってしまった中国人女性がいる。

数年前、この中堅ドラッグストアは中国人観光客をターゲットにして、これから展開しようとするインバウンドビジネスのために、地方に居住する彼女をそのスペシャリストとして中途採用した。

会社の期待と与えられたその仕事の可能性に彼女は燃えた。2年前のとある日曜日、たまたま私が岐阜県恵那市に泊っているという情報をつかんだ彼女は、雨の中を、私に会いに駆けつけてきた。帰りの終電の問題もあり、わずか1時間しか会えなかったが、それでも彼女は大満足だった。

小さな子どもを抱えている彼女は、言いかえれば、若いお母さん社員だ。終電に乗り遅れまいと小走りに去っていく彼女の後ろ姿を見詰めながら、私は心の中で、日本企業、特に地方企業のしがらみにやがてがっかりして、会社を辞めてしまうようなことが起こらないよう、と祈った。

その後も、岐阜を訪問する私のところに、彼女は熱心に上司を引っ張ってきて紹介したりして、なんとかインバウンドビジネスを始めようと懸命に努力した。仕事熱心な彼女を応援するため、私も提案したり情報を提供したりした。しかし、会社の腰は思う以上に重かった。次第に彼女の口から会社の体制や意思決定の遅れに対する不平不満がこぼれるようになった。

その都度、私はできるだけ慰めながら彼女を励ましてあげた。「日本の地方企業が新しいビジネスになかなか踏み出せないのは、別にあなたの勤める会社だけのことではない。日本企業の共通の問題だ。気長く辛抱強くやっていけば、いずれは会社が動き出すだろう」と。

しかし、会社が彼女を採用するときに描いていたインバウンドビジネスはなかなか始まらない。いつの間にかお茶汲み、コピー取りなどの雑務をやるのが彼女の仕事となった。「わたしの給料水準を考えると、こんな仕事をさせる会社のほうがよほど太っ腹だ」と、彼女は私の前で苦笑いしながら、苦しい心境を打ち明けた。

案の定、しばらく前に、彼女は安定した収入を保証してくれた会社員の生活を蹴って、翻訳の仕事をする不安定なフリーの道を選んだ。東京に暮らしているなら、私の事務所に来てもらいたいと思うほど、私はやる気のある彼女を評価している。あの中堅ドラッグストアは惜しいことをしてしまった、とも思った。

リソース:ダイヤモンド

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