JAソーラーの上海におけるモジュール工場内
結晶シリコン型太陽電池セルの生産量で世界2位、モジュールの生産量で世界8位(2012年、米ソーラーバズ調べ)の中国・JAソーラー。同社のジン保芳・会長兼最高経営責任者(CEO)ら幹部は、このほど上海本社で東洋経済記者らと会見した。
会見の中でJAソーラーは、業界最大手だったサンテックパワーの破綻を受け、中国の太陽電池メーカーを取り巻く環境は短期的に厳しさを増しているものの、自社の財務体質は中国業界他社に比べて健全であり、国内外の多数の取引銀行と緊密な関係を維持できていると強調した。
また、昨年から再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を開始した日本市場は、今年の出荷量が中国に次ぎ世界2位へ急増する可能性があるとの見通しを示した。そのうえで、自社の日本での出荷量を昨年の約80メガワット(8万キロワット)から今年は倍以上に増やし、中期的に日本でのシェア8~10%を目指して販売戦略を強化する方針を明らかにした。
2年連続赤字、米国の反ダンピング関税も響く
米国ナスダック市場に株式を上場しているJAソーラーは、2011年12月期、12年12月期と2期連続で赤字を計上。ほかの中国系大手と同様に、経営は厳しい状況にある。12年12月期は、太陽電池(セルとモジュール合計)の出荷量が約1.7ギガワット(170万キロワット)と前期比ほぼ横ばいながら、売上高は67.2億元(10.8億ドル)と同37%減となり、粗利益段階からの赤字に転落。最終赤字は17.2億元(2.8億ドル)と約3倍に膨らんだ。
業界の過剰生産能力と最大市場・欧州での需要減退により製品価格の急落が続いたことに加え、米国商務省による中国製太陽電池に対する反ダンピング関税の導入、さらには全体の十数%に相当する600メガワット分の生産設備を廃棄した費用などが響いた。
2008年には120ドル台、10年には40ドル台だった株価は現在、4ドル台(時価総額約1.5億ドル)まで下落している。
サンテック破綻は「固有の問題」、CB償還資金は用意済み
中国では世界最大手サンテックが今年3月に5.4億ドルの転換社債償還に失敗し、破産手続きに入った。中国メーカー全般に対する顧客や金融機関の目は一段と厳しさを増しており、少なくとも短期的な影響は避けられない。
JAソーラーのジン会長兼CEO(写真)は、サンテックの破綻について、「(過剰)投資と経営方針におけるサンテック固有の問題であり、業界全体の問題ではない。むしろ、業界の再編淘汰を通じ、よい方向に向かうだろう」と述べた。そして、「すでに業界の中小企業の6~7割が淘汰され、かつてほど過剰とはいえなくなった。サンテックが破綻してシェアを10%落としたことで、市場全体も変わる可能性がある。われわれはその変化に適応していきたい」と語った。
曹敏・最高財務責任者(CFO)は、JAソーラーは株主資本比率(37%)や負債比率、流動性比率で見た財務体質が中国他社に比べ健全だと強調。現在保有する現金は約5億ドルで、中国開発銀行をはじめ取引銀行からの未使用融資枠も2億ドル以上残っており、5月に期限が到来する約1.2億ドルの転換社債償還のための資金はすでに用意済みだと述べた。また、当面は設備投資を抑制していくとともに、商品構成についても2011年まではセル中心だったが、よりエンドユーザーに近く、付加価値の高いモジュールを主体に据えていくという。
過剰生産能力は解消せず、欧米との通商摩擦も激化
ただ、根本的な過剰生産能力の問題は解決できておらず、中国メーカーを取り巻く環境は依然、厳しい。全6工場をすべて中国国内に置くJAソーラーの生産能力は現在、モジュールが1.8ギガワット、セルが2.5ギガワット、ウエハが1.0ギガワット。これに対し2013年の出荷高を会社側はモジュールとセルを合わせて1.7~1.9ギガワットと見込む。
業界全体としても需給の不均衡はなお激しい。2013年の世界の出荷高は中国、日本、インドなどアジア諸国が伸びるものの、これまで世界市場を牽引してきたドイツ、イタリアなどの欧州は導入支援策縮小から大幅減少となり、全体では31ギガワットと前年比7%増にとどまる見通し。一方、実質的な生産能力は依然、業界全体で40~45ギガワットはあると見られている(米国ソーラーバズの予想)。
また、太陽電池をめぐる欧米と中国との通商摩擦も激化している。米国は昨年11月、中国製の太陽電池が政府の不当な補助金を利用して不当に安い価格で輸入されているとして、反ダンピング関税と相殺関税を課した。欧州委員会も昨年来、中国製品のダンピングに関する調査を行っており、6月ごろに懲罰関税を含めた対応を仮決定する見通し。これに対して、中国政府も報復措置をちらつかせている。
世界2位へ浮上する日本は外資にも“おいしい”市場
こうした環境下、中国メーカーも戦略見直しを余儀なくされている。すなわち、これまでの海外での主戦場だった欧米から、日本をはじめとした新たな成長市場への戦略シフトだ。
謝健・最高執行責任者(COO)は、「日本をはじめ、インド、タイなどアジア諸国のほか、イスラエル、モロッコなど中東、アフリカにも積極的に参入していく」と話す。
JAソーラーでは、2013年の太陽電池の国別出荷量について、中国は政府の支援策次第で変動が大きいものの、6~10ギガワットで世界トップとなり、次いで日本がFIT効果で昨年の2.5ギガワットから5ギガワットへ伸び、ドイツ、米国、イタリアを抜いて2位へ浮上すると見ている。
日本のFITによる太陽光発電の買い取り価格は、2014年度まで3年間は事業者の利潤に配慮される。そのため、13年度もキロワット時当たり税込み38円程度と、欧州に比べ2倍以上の高水準にあり、太陽電池の価格も海外に比べて2~5割程度高いと言われる。日本の太陽電池メーカーにとって「今がわが世の春」(国内大手)。当然、外資にとっても、これほど“おいしい”市場は世界のどこにもない。
日本市場での2013年出荷量は倍増以上狙う
JAソーラーは日本では自社ブランドだけではなく、商社の丸紅や高島と組みOEMでも展開している。最近はメガソーラーを含めた非住宅向けが8割方を占めている。2012年の日本での出荷量は80メガワットで、中国メーカーとしてはサンテックに次ぎ2位だったが、13年1~3月は中国メーカーでトップに浮上すると見込む。13年通年の出荷量は前年比で倍増以上が目標。中期的には日本でシェア8~10%を獲得し、外資トップの座を狙っている。
ジンCEOは日本市場について、「ほかの市場に比べ、顧客の商品に対する要求が非常に厳しい。そうした日本市場で鍛錬を積むことで、当社の製品とサービスの質を向上させていきたい」と語る。
JAソーラーはすでに、日本支社では営業要員を約20人に増員し、中国本社でも日本市場向けの新商品開発やアフターサービス拡充など、これまでなかった取り組みを始めている。新商品開発については、日本で今年6月以降にメガソーラーの建設がピークを迎えるのに合わせ、各顧客にカスタマイズした新商品を投入していく考えだ。
低価格のみ追求せず、新商品開発や変換効率向上に注力
日本における価格戦略について日本市場の責任者を務める李燕・副社長は、「欧州では悪質な価格競争が横行して市場秩序が乱れ、多くの企業が倒産した。日本において当社は、必ずしも低価格で提供するのではなく、適切な価格で顧客ニーズに合った高品質の商品を提供していくことで、日本の太陽光市場の健全な成長に貢献したい」と話す。
中国メーカーにとっては、日本勢に比べた低価格が最大の武器のひとつであることは間違いない。ただ、激しい低価格競争が結局、自分の首を絞めることを経験しているだけに、少なくとも当面は25年保証などもアピールしながら、確実にマージンを確保する戦略でいくものと見られる。
さらに、技術開発について最高技術責任者(CTO)を務めるリュウ勇・上席副社長は、「中国メーカーはすでに模倣の段階を過ぎており、イノベーションがなければ主導的地位を保てない」と語る。単結晶セルの変換効率は量産ベースですでに19.5%を上回る水準を達成しているが、今年中に20%超、来年中に21%超を目指すという。セルに比べて2~3%のパワーロスが発生するモジュールにおいても、「今後3年以内には開発段階で20%の大台乗せが可能」との見通しを示した。
(※記事中、「ジンCEO」のジンは左側が「革」で右側が「斤」の合字。「リュウCTO」の「リュウ」は左側が「文」で右側が「リ〈りっとう〉」の合字)
リソース:東洋経済
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