10%超の経済成長を5年連続で記録した中国――中国市場に繰り出す日本企業は多いが、ビジネスのやり方の違いに戸惑うといわれる。中国人経営者として初めて東証1部上場したソフトブレーンの宋文洲氏は、日中のビジネスマンに「大きな違いを感じない」という。
ソフトブレーンマネージメント・アドバイザーの宋文洲氏
「日本人は、個人の自立が足りないよ」――ソフトブレーンのマネージメント・アドバイザー宋文洲氏は、日本人と中国人の違いついてこんな印象を持っているという。
中国人経営者として初めて東証1部に上場を果たし、中国オフィスを開設するなど、日本と中国の双方でビジネスをしてきた。13億の人口を抱える巨大市場と安価な労働力を求めて、中国に繰り出す日本企業は多いが、ビジネスのやり方の違いに戸惑うといわれる。しかし、宋氏は日本人と中国人の間で「それほど大きな違いを感じない」という。
むしろ「中国から学べるところがあるとしたら、国家や企業に依存しないで、個人として世界へ出ていくこと。差別や誤解があっても、わたしはここで生きていくんだ、という本当のプライドが日本には必要だと思う」
12月7日、NECが開催した「C&Cユーザーフォーラム」に登場し、三井物産戦略研究所中国経済センター所長の沈才彬氏と、中国と日本のビジネスの違いについて話した。
まだまだ中国経済は未熟
5年連続で10%を超える経済成長を続ける中国――さまざまな数値に表れる中国の経済発展は目覚ましい。しかし宋氏は「日本が中国に負けるという評論家もいるが、過大評価だと思う」と言う。数値に表れる中国と、生活者の視点では大きな隔たりを感じるからだ。
「戦争以来、中国はずっと谷の底にあった。最近になって、本来占めるべき正しいパーセンテージになってきただけ。あまりに貧しいこところからのスタートだから、ちょっと頑張れば向上するというのが現状。それに、勝ち負けの問題じゃないよね」
昨年末ごろから、中国経済は過熱かどうかという議論が始まっているものの「生活者から見れば、まだ苦しい。成長を実感できていない」というのが宋氏の本音だ。上海の総合株価指数もここ2年で5倍以上というすさまじい成長も「北京オリンピックが終わるまで政府は冷やさないと、市民が足元を見ている。中国経済を信頼しているのではなく、上がると思っているから買っているだけ、下がると思えば急落する」と話す。
中国が日本に取って代わり「世界の工場」と呼ばれていることにも「最初はタオルや靴下から始めて、10年前に電機製品もやりたいと思うようになり、5年前になってやっと車やTV、コンピュータをやれるようになった。非常にレベルの低い工場からやってきたところ」。中国はまだ加工工場にすぎず、未熟だという。
有能な中国人は日本企業が嫌い
日中ビジネスマンの違いについて問われた宋氏は「21年も日本にいるから、経営者として使う場合は日本人の方が好き」と答える。「信頼関係も労使関係も長く持てる。悪く言えば使いやすい」からだ。「中国人は隣の給料が1万円高いだけですぐ辞める」。むしろ中国オフィスを立ち上げる方が、正直大変だったと振り返る。
ただ、日本企業にとって中国でビジネスをする際に問題となるのは、有能な中国人は日本企業を嫌いに思っている点だ。あいまいな評価しか行わないため「働いても働かなくても給料は変わらない」と知っているのだ。
「新しい市場でいち早くシェアをとろうと思ったら、現地の有能な人間を雇うのが鉄則。一番効率の良い商売のやり方を考えなきゃ」。この点さえおさえていれば「実際は、日本人も中国人も大きな違いを感じない。」
「中国人からすると、日本はこれだけ豊かになって、何を求めて生きていくのかと思っている」という厳しい指摘も飛び出した。同氏が来日して20年ほどが過ぎたが「当時に比べて日本の若者は興味を失っている」と感じているという。
「日本の個人は目標を喪失し、国としてどこに行こうとしているのか」
「中国人はただ貧乏から抜け出したいと思っている。日本のものを輸入したいというのも、ハイクオリティーなものが欲しいだけで、それ以外は中国製品の方が安いから、それでいいと思っている」
「このままだと、日本はハイテクやハイクオリティーなものしか接点が持てなくなる。この差はいずれ埋まってくるのに。日本は先進国相手にしかビジネスできなくなっちゃうよ」
宋氏は、華僑のような個人のパワーを中国に学べるのではないか、と考えている。「日本人には、国家や企業に依存しない自立が必要。強い国というのは強い個人の数で決まるもの。もはや日本の中だけで商売をやっていくのは不可能なんだから、中国が好きでも嫌いでも飛び込んでいってほしい。ソニーのような企業の駐在員としてではなく、もっと個人として中国に来て、ビジネスを興す人がもっといてもいいと思う」
日本企業は時にはトップダウンを
三井物産戦略研究所中国経済センター所長の沈才彬氏
アナリストの沈氏は、日中のビジネスの違いとして国民性と意思決定の違いを指摘した。
「中国は個人主義で能力主義。どちらかというとアメリカに近い。日本はチームワークを重視する。また、意思決定も違う。日本はボトムアップだが、中国はトップダウン。これもアメリカに近い」
ボトムアップには慎重さという良さがある一方で、意思決定までに時間が掛かる。どちらが良いというわけではないが、グローバルでやっていくにはトップダウンで迅速に動くことが必要な場合もあるという。
「中国に進出する日本企業は、まず課長さんが下見に来て、部長さんに報告する。そして部長さんが中国に来て、本部長が来る。社長さんが来るころには、別の外資の企業にすでに取られてしまっていたということがある」
「日本企業はもはや国内だけでは飯は食えない」
また、沈氏は「日中のビジネス関係は別居中の夫婦みたいなもの」と表現。相互依存が進み、離れようにも離れられない関係になっており、日本企業は中国やアジアの視点を持つことがますます大切だという。
「日本企業はもはや国内だけでは飯は食えない。海外市場の開拓が必要だ。特に中国は、2010年には日本の最大の貿易相手国になっている可能性がある。アジアと中国の視点が大切になってきている」
リソース:ITmedia エグゼクティブ
0 件のコメント:
コメントを投稿