2013年2月27日水曜日

中国アリババが変革加速 事業部門を細分化、CEO退任


中国の電子商取引最大手、アリババ集団(浙江省)の動きが急だ。年初早々に事業部門の再編を発表。直後に創業者の馬雲(ジャック・マー)会長兼最高経営責任者(CEO)が5月のCEO退任を宣言し、さらにネット通販向け商品配送網の整備に1000億元(約1兆4000億円)投じる計画を明らかにした。この数年は不祥事が続き、暗い話題が多かったアリババ。急加速は何を意味するのか。

アリババは3億7000万人が登録するネット通販サイト「淘宝網」などを運営する中国の電子商取引業界の巨人。高級ブランド品を集めた仮想商店街「天猫」と合わせると、個人向け通販事業の取引額は2012年に1兆元(約15兆円)を突破、中国の小売総額の約5%に相当する規模の電子商取引を1社でまかなう。

だが、1999年の創業以来、中国のネット市場を切り開いてきたアリババもこの数年は急成長のゆがみが出ていた。出店業者と結託して、劣悪品を売り込むといった不正事件が表面化。株主でもある米ヤフーとは、ネット決済会社の利益配分を巡り関係が険悪になった。

だが、そうした問題も昨年中にどうにか片付けた。アリババが1月に矢継ぎ早に繰り出した3つの策は、次の時代に向けてネジを巻き直した証左だろう。

物流網の整備はアリババの変化を象徴する。8~10年内に広大な中国で、注文したらどこにでも24時間以内に商品を配送できるようにする。想定するのは年10兆元のネット通販取引額を支えられるインフラだ。

中国のネット通販市場の成長を阻害する要因としてかねて懸念されていた物流。中国では日本のような高品質な配送サービスはまだ根付いていない。届いた商品が破損したり、遅れたりするのは日常茶飯事だ。

アリババでは投資リスクを避けるため、出店者が自ら宅配業者を手配、商品を送り届ける仕組みを取ってきた。だが、「京東商城」や「1号店」など、自前でリスクを取って物流網を整え、確実に商品を配送するネット通販企業が台頭。中国の個人向けネット通販市場で8割前後のシェアを確保しているアリババとて、ライバルの動向は無視できない。

ただ、アリババ関係者はこう強調する。「これは単なる倉庫を設けるような話じゃない」


確かに今回のプロジェクトには順豊速運(広東省)など大手宅配業者をはじめ、投資会社の復星集団(上海市)などからなる財団や金融機関が加わる。共同で資金を出し合い、IT(情報技術)を活用した高効率で低コストな物流インフラを作る。目指すのは「中国の新たな商業インフラだ」(アリババ関係者)。

アリババのビジネスモデルの根底には「生態系」と呼ぶ発想がある。アリババが提供するサイトやサービスはいわば地球。その上で、モノを売りたい企業や個人、買いたい企業や消費者が集まり、自由にビジネスを展開してもらう。「ネット時代のインフラ企業になる」。社内でこう話すという馬会長の夢は壮大だ。

今やネット利用者数が5億6400万人超に増えた中国。中国の調査会社の艾瑞諮詢(アイ・リサーチ)によれば、12年の中国のネット通販市場は前年比66.2%増の1兆3040億元まで膨らんだ。この先、どうネット市場は発展していくのか。馬会長が見据えるのは、大きな変革だ。

昨年9月9日、淘宝網の優良出店者を集めたイベントで講演した馬会長はこう強調した。「企業から個人へのBtoCビジネスから、個人から企業へのCtoBビジネスに転換しないといけない。我々ができようができまいが、それが社会の趨勢だ」。馬会長は、個人が欲しいものを企業がオーダーメードで作ってくれる時代の到来を確信する。

年明け早々に7つの部門を25部門に細分化したのは「生態系」での変革に備えるためだ。そして、経営のかじ取りをこれからの時代の流れを敏感にかぎ取れる若い世代に任せる決断を馬会長はした。

1月15日、2万4000人の従業員にCEO退任を宣言したメールで、馬会長は後継CEOについて、冗談めかしてこう書いた。「私のような性格が分かりやすくて“ET(=宇宙人)”のようなCEOの職を引き継ぐことは、大きな勇気と犠牲の精神が必要になる」

それは“宇宙人”でもなし遂げられないかもしれないネット市場の変革が待っているというメッセージなのかもしれない。近い将来、米国を抜いて世界最大のネット市場となる中国で新たな「生態系」をどう作り上げるのか。その行方から目が離せそうにない。

リソース:日本経済新聞

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