2012年11月20日火曜日

中国の年金事情

企業従業員の場合

70歳近くなる李さんは毎月10日になると開店前の銀行の前に並び、4~5時間かけて1600元の年金を受け取る。1966年に大学を卒業した李さんは国営企業に配属され、エンジニアからキャリアをスタートさせた。40年近く同じ職場で働き、工場長まで出世した。2002年の定年時の職級は「正処級」(7~10級)だったが、年金額は満足のいくものではなく、数年連続の調整を経て、やっと1600元まで上がった。一方、事務系の機関で働いていた大学時代の同級生の年金は皆5000元を超えており、一生懸命働いてきた李さんにとっては不公平感が募る。

編集部注:

中国では1984年より、農村部以外の地域の企業で働く従業員向けの年金制度が、賦課方式で実施されている。1997年、国務院が公布した「統一的な企業従業員の基本年金保険制度制定の決定」において、個人口座と結合させた統一的な基本年金制度へと移行した。従業員の給与総額の20%にあたる額を雇用側が負担し、さらに従業員の個人口座から8%を徴収するものである。徴収年数が満15年になれば、定年退職後に基本年金が給付される。基本年金は基礎年金と個人口座の年金から構成される。基礎年金の月額は省や自治区、直轄市における前年度の従業員平均月給の20%を基準にし、個人口座年金の月額は、口座残高を120で割ったものを基準とする。個人口座からの徴収が15年未満だった場合は、定年後に基礎年金は給付されず、個人口座の貯蓄が一括で給付される。

この規定に基づき、雑誌「南方週末」が試算した。30年働いた企業従業員が毎年給与の8%を収めた場合、その総額は少なくて数万、多くて10数万元となる。しかし定年退職後に得られる年金は、退職前給与の30%前後でしかない。一方、在職期間に年金を収めない公務員は退職前給与の80~90%に達する。つまり、退職前給与の額がどうであれ、退職後の企業従業員は退職後の公務員の3分の1の金額しか支給されないのだ。李さんとその同級生の年金額に大きな差が出たゆえんである。

人力資源社会保障部のスポークスマンである尹成基氏による2011年末の発言では、年金額の格差を緩和するため、国家は2005年から7年連続で企業従業員の年金額を増額し、全国平均では1531元に達したと言う。しかし実際は、この措置は必ずしも企業従業員と公務員の年金格差を埋めるものではなく、むしろ格差を助長させるものになっている。企業従業員の年金待遇に対する不公平感はますます強まっている。

個人経営、非正規雇用者の場合

呉さんはかつて会社員だったが、1995年に独立してビジネスを始めてから年金保険の支払を止め、現在まで再加入していない。わけを尋ねると、20%という保険料が高すぎて割が合わないのが主な理由だと答えた。呉さんだけでなく、彼の周りの個人経営者たちも年金保険に加入していないと言う。

編集部注:

基本年金保険の範囲を拡げるため、国務院は2005年、「企業従業員の基本年金保険制度に対する国務院の決定について」を公布、個人経営や非正規雇用者も企業従業員基本年金保険に参加することを定めた。農村部以外地域の個人経営者や非正規雇用者の基本年金保険の支払金額は、前年度の当地における平均月収の20%とし、そのうち8%は個人口座に記入される。支払金額は本人の実際の収入状況と経済力に基づき、前年度の一般平均月収の60%~300%の範囲において自ら選択できる。基本年金保険料の支払が累計で満15年以上になれば、定年後に企業従業員向け基本年金を受け取ることができる。

この政策は非正規雇用者の年金保険加入問題を解決する足がかりにはなったが、実際の各地の実施状況を見ると、様々な問題があることが明らかになった。中でも目立ったのが、支払基準額が高すぎることから、個人経営や非正規雇用者の年金保険加入率が低い基準に留まったことである。国家統計局が発表した「2011年農村部以外地域における従業員の給与収入報告」によると、2011年の農村部以外地域の従業員の年間給与は42452元だった。この金額を基に20%で計算すると、非正規雇用者が支払うべき年金保険は年に8490元となる。1万元近い保険費用は非正規雇用者には受け入れがたいものである。それ以外にも、この施策の短期間での効果が見えないこと、想定される収益が不明瞭なこと、支払年限が短すぎること、支払方式に融通性がないこと、各年金制度を統一化させることの困難性などの問題がある。そのため現状では、非正規雇用者に対しては制度的に不足がある。

農民の場合

張おばさんは今年58歳。北京郊外で暮らす農民だ。2009年からすでに3年の間、新型農村社会年金保険からの年金を得ている。最初は280元だったが、今は420元になった。夫は今年59歳で、年金が給付されてから5年が経った。毎年960元が給付されてきたが、来年からは毎月500元近い年金が給付されることになった。新型農村社会年金保険について張おばさんは、「ないよりはまし」と言う。しかし彼らのような農地を失った農民にとって、年金だけで生活するのは不可能といえる。彼らの子供たちも自分の生活で精いっぱいのため、両親の生活を支えるのは難しい。そのため老夫婦は今でも生活のためにアルバイトをしている。体の動くうちに老後の蓄えもしておきたい。悠々自適の老後生活はまだ先の話だ。

編集部注:

第5回全国人口調査のデータによると、60歳以上の農村老年人口は8557万人で、全国の老年人口の66%を占める。農村の高齢化率は農村以外地域のそれを1.24%上回っており、その傾向は2040年前後まで続くと言われている。

国務院は2009年より全国の10%にあたる県(市、区)で新型農村社会年金保険を試験的に実施してきた。満16歳(学生を含まない)で、農村以外地域での基本年金保険に加入していない農村戸籍の個人は、年支払100元、200元、300元、400元、500元のうち1つを任意に選択できる。もちろん、支払が多いほど給付額が高くなる。この保険に加入した農村住民は、満60歳になった翌月から毎月年金が給付される。この農村新保険は、第12次五カ年計画中にすべての地域で実現される予定だ。

財政部のデータによると、2009年に国家財政から新型農村社会年金保険向けに第1次補助金として9.5億元が出され、毎年その金額は上昇し、2011年には131億元になっている。

人力資源社会保障部のデータによれば、2011年末までに27の省、自治区の1914の県(市、区、旗)と4直轄市の一部の県において新型農村社会年金保険の試験的実施が行われており、保険加入者は3億2643万人に達している。そのうちすでに年金の給付を受けているのは8525万人に上る。

事務系公務員の場合

斉おばさんは今年58歳。退職するまでは河北省の炭鉱関連の一般公務員だった。現在、社会保険センターから毎月2560元が支給される。夫も同地の公務員である。一人娘は大学院を卒業後、北京に留まり仕事をしている。夫婦に老後の不安はない。

編集部注:

中国の「国家公務員暫定条例」によると、男女公務員の法定退職年齢はそれぞれ60歳と55歳。公務員の定年後の待遇は、主に退職時の給料と勤続年数で決まる。たとえば勤続年数が満35年の場合、職務手当、級別手当合計の88%で計算される。勤続年数が30年から35年未満の場合は82%が、勤続年数20年から30年の場合は75%が、それぞれ支給される。

大部分の事務系公務員は、在職期間に年金保険を収める必要はない。定年退職後に、国家財政より退職金が支給される。中国社会科学院が発表した「2011年中国年金発展報告」によると、2010年の年金支給総額のうち、事務系定年退職者の年金支給が10.85%を占めている。人力資源社会保障部のデータによると、2010年における全国の事務系の定年退職者は、全ての定年退職者の7.74%を占める。定年退職した公務員に政府が支払った金額は218億元で、GDPの5.4%を占める。事務系と技術系の年金額の格差は徐々に広まっており、公務員の年金制度改革を叫ぶ声はますます高まっている。

国務院が2008年初頭に公布した「事業単位年金保険制度改革案」は、山西、上海、浙江、広東、重慶の5省(市)で試験的に実施されている。改革の骨子は、1.事業単位での分類、2.行政職能を持つ公務員の労働保障体系への組み入れ、3.経営性を持った事業単位、4.企業の従業員保障制度を参考にした改革、などである。絶対多数を占める公益サービスに従事する事業単位の職員に対しては、現状の企業従業員と同様の年金制度とした。しかし4年が経過し、改革の進展はあまり進まず、中には全く改善の見られない地域もあった。この改革を速やかに全国的に実施するのは困難というのが現状であり、公務員年金改革への道のりは険しいと言わざるをえない。

農村からの出稼ぎ労働者
 
甘粛省出身で24歳の劉さんは、毎朝6時ぴったりに起きる。7時になると、村はずれにある瓶詰工場に出勤する。北京に出稼ぎに来たのは20歳のときだった。現在は、瓶詰工場が立地する村にある、大きな長屋で妻と暮らしている。長屋には他にも4家族が住んでおり、彼らも劉さん家族と同様、出稼ぎとその家族である。彼らは建築、施工、運搬等の仕事に従事している。年金保険について尋ねると、劉さんは「今日は北京にいるけど、明日は上海に行くかもわからない。年金なんて街の人のことさ。歳を取ったら、故郷に帰るだけさ」と笑った。
 
編集部注:
 
人力資源社会保障部が先ごろ発表した「2011年度人力資源社会保障事業発展統計公報」によると、農村以外地域で年金保険に加入する出稼ぎ労働者は2011年末時点で4140万人だった。一方、全国の出稼ぎ労働者数は2億5278万人である。つまり年金加入者は全体の6分の1に過ぎない。
 
出稼ぎ労働者向けの年金保険の対策が始まったのは1998年。10数年が経過したが、依然として大量の出稼ぎ労働者は年金保険に加入していない。「工人日報」は、出稼ぎ労働者自身の意識が低いことを除いた主因として、彼らを雇用する企業が20%の費用を拠出できず、拠出逃れをしていることにあると分析する。たとえ拠出できる余裕がある企業でも、多くの出稼ぎ労働者は15年以上も年金保険に加入し続けることは困難であり、また働く場所を転々とするため、年金保険の加入が困難となっている。
 
近年は一貫して現実のニーズにあった方法で彼らに年金保険の加入を促している。たとえば地域をまたいだ流動的な就労に対する年金保険制度の確立などである。2009年、人力資源社会保障部は「出稼ぎ労働者の基本年金保険参加の方法」を発表し、広く意見を求めた。その中で、雇用側は出稼ぎ労働者と共同で基本年金保険費を収めるべきとしている。その金額は、基本年金保険に規定された数値を基本とする。企業の負担は20%から12%に下げ、出稼ぎ労働者個人からの徴収は4~8%とする。全てを本人の基本年金保険の口座に入れる。加入年数が満15年以上となれば、社会保険機構が基本年金保険の規定に基づき審査、確認後に基礎年金と個人口座年金を給付する。加入年数が15年を満たない場合は、新型農村社会年金保険に加入し、社会保険機構を通じて基本年金保険記録と資金を同保険に移す。それにより、同保険で得られる待遇を享受することができる。新型農村社会年金保険に加入しない場合は、農村以外地域の人々と同様に、一括での年金給付を行う。
 
リソース:チャイナネット
 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿