2013年4月20日土曜日

“日本化”する、90年代生まれの中国男子

日本の「ゆとり社員」とそっくりな新人類

1990年代以降に生まれた中国人は、それ以前の中国人とはかなり違う傾向が見られる(写真:ロイター/アフロ)
 
 中国で、1980年代生まれの人を「80後(バーリンホウ)」、1990年代生まれの人を「90後(ジョウリンホウ)」と呼びます。中国政府の統計によると、昨年は680万人の学生が大学から卒業しました。留年や浪人していないと考えると、彼らは90後として初めて社会に出ることになります。たかが10年と思うかもしれませんが、経済状況が目まぐるしく変化する中国では、世代間の違いは非常に顕著です。

前回は「個人事業主」化する80後を紹介させていただきましたが、今回は90後の生態を紹介したいと思います。私は80後ですが、90後の若者が徐々に社会人になってくるにつれて、彼らがこれまでの世代とはまったく異なるマインドを持っていると痛感しています。

90年代生まれは金遣いがとても荒い

私のバックグラウンドを簡単に説明すると、中国で生まれ、中学校と高校1年までを中国で過ごし、小学校と高校2年からを日本で過ごして、社会人になってからはマッキンゼーの東京オフィスで働きました。その後、游仁堂に転じ、中国と日本を行き来しています。日本と中国を半々ぐらいで見ている私には、90後は、良くも悪くも日本化していると思います。満ち足りた時代に生まれ育ったので、ハングリーさが足りず、タフではない。要するに、草食化している。

まず、90後は非常に金遣いが荒く、今までのいかなる世代とも消費行動が異なります。4年生大学を出た新卒の給料は一般的に3000元(4万5000円、1元=15円換算)程度ですが、5000元弱(7万5000円弱)もするiPhone5を90後はかなりの割合で持っています。80後も確かに70後に比べて消費する傾向にありますが、それは可処分所得の増加によるものです。しかしながら、90後は自分の稼いだ額以上のおカネを使い、貯金はあまりしません。

たとえば、先日、わが社の新入社員で22歳の90後が、上海随一のクラブの1室を借り切って、自分の誕生日会を開きました。特注のケーキをふるまったり、大きなウイスキーのボトルを注文したりするので、われわれ経営陣は彼が支払えないのではないかとヒヤヒヤしていました。しかし、彼はいつの間にか会計を済ませて、さっと帰っていきました。その日の代金は彼の1カ月分の給料を超えていたと思います。おそらく、彼が親からもらったお小遣いで支払ったのでしょう。

90後の若者は海外旅行にもしょっちゅう出掛け、毎回、親に数万円のプレゼントを買って帰ります。日本に旅行したときに人気のおみやげは、1万円程度の日本製電動歯ブラシです。そのおカネの出所は結局、親なのですが……。日本の新卒の社会人が海外旅行で、毎回、親に高価なおみやげを買う人はあまりいないのではないでしょうか。面白いことに90後の親が海外旅行をしても、このような高価なものを自分のために買ったりしません。やはり実際の所得よりも、金銭的な感覚のほうが消費行動に影響を与えていると思います。

日本のゆとり社員と似ている

また、90後はキャリアに対する感覚も80後とは全然違います。70後から80後の世代に見られた強烈なハングリー精神があまり感じられないのです。

私の友人が上海の大きな外資系企業に勤めており、この5年間、毎年インターンを採用しているのですが、80後のインターンは今も全員残っているのに、90後のインターンは半数以下しか残っていないと言います。しかも、辞める理由が情けない。「マルチタスキングに耐え切れず、体調を崩した」「人生について悩み、自信が持てなくなったので親元に帰りたい」などと言う。80後以前の世代なら、上海の大きな外資系企業にインターンで入ったら、頑張っておカネを稼ぎ、ゆくゆくは親を上海に連れてこようと考えたものです。

せっかく海外に留学しても、外国でチャレンジしたくないといって中国に戻ってくる90後も増えています。これも昔なら、たとえば日本に留学したら、おカネをガンガン稼いで両親を呼びたいと考えたものでした。

90後は給料や福利厚生以外に、仕事の内容が好みであるかどうか、会社の雰囲気や仕事の自由度を非常に重視します。

90後と一緒に働いている友人たちは、彼らの主体性のなさも口をそろえて指摘します。私のような80後は、自己主張が強く、どうしても「俺が」「俺が」になってしまいがちで、特に日系企業では、上司からすると扱いにくい存在だと思います。

それに対して、90後は自己主張が少なく、しかっても何の反論もしない。メモをとって素直に「はい」「はい」とうなずいているけれども、本当に聞いているかどうかはあやしい。実際、何回注意しても同じことを繰り返す。そして、自分からは何も質問してこない。今の仕事が楽しいのかつまらないのかもよくわからない……。この感じ、日本のゆとり社員の傾向とよく似ています。

80後であれば上司や先輩に対してリスペクトしますが、上下関係の感覚も90後はあまり持っていないようです。特に新しいメディアやソーシャルツールにおけるコミュニケーションは非常にカジュアルです。弊社では数多くの90後の大学生をインターンとして採用しているのですが、あるプロジェクトで一緒に仕事をした際、普段のやり取りは一般的なのですが、メールやWechat(中国版LINE)だと私を含めたメンバーに対して、まるで友達に話すかのようにフィードバックを行います。これも80後の世代ではなかなか考えられないことです。

大学生は自由な恋愛を謳歌

勉強のほうも、以前ほどはしていないようです。私の時代は、大学受験でいい点を取って、いい大学に入り、有望な会社に入るのが唯一の出世街道と言われていました。私は山東省にある全寮制の進学校に行っていたのですが、基本的に朝8時から夜の10時まで授業があって、そのほかの時間もずっと勉強していました。徹底的な詰め込み教育で、すべて暗記。「英語の辞書も全部暗記したら、きっと英語ができるようになるはずだ!」という滅茶苦茶な理論で、暗記させられました。確かに、英語ができるようにはなりましたが……。

そんな状況ですから、恋愛なんて絶対禁止です。高校の男子寮の隣に女子寮がありましたが、夜、寮に帰るときは先生が見張っていました。生徒が恋愛をしないようにです。「恋愛をすると、成績が下がるから、恋愛をするな」と言われていました。男子と女子が手をつないでもダメ。大学でも、教室でキスをしたカップルが退学処分になり、それが社会議論になったくらいです。

しかし、90後に話を聞くと、今はかなりオープンになっているようです。大学生は自由に恋愛をしているし、高校生も表向きは恋愛禁止ですが、大多数が異性と交際しているとか。これはかなり大きな変化です。
では、なぜ90後の生態は80後のそれと比較して、これほどまで異なるのでしょうか。

それを理解していただくには、まず80後が育ってきた社会環境を少し紹介させて下さい。私を含め、80後の人は、文化大革命(1966~1976年)の頃に青春期をおくった世代の親に育てられました。中国は、文化大革命(以下、文革)によって世代が大きく変化しています。文革の約10年間は大学受験がありませんでした。受験が再開したとき、大学生が1人もおらず、あらゆる組織が人材難だったので、半年で2回も大学受験を行いました。私の両親は初回の受験で合格しています。文革後初期に大学に合格した人たちが、中国の改革開放をリードしてきました。

親世代の40代前半は、最もおカネを持っている

私の子どもの頃はまだ貧しくて、親が卵などは買えなかったと記憶しています。自宅に電話を取り付けると、同じマンション内で電話があるのは私の家だけだったので、マンションの住人が皆、借りに来て、うちの電話が公衆電話化しました。

私が6歳のときに日本に来てビックリしたのが、粗大ゴミ置き場にテレビが大量に捨てられていたことです。中国ではテレビが普及し始めたばかりでしたから、「なんでここにテレビが置いてあるのだろう。もらっていいのかな?」と思ったものです。

しかし、私が高校生ぐらいになると、冷蔵庫や洗濯機、テレビ、自動車がどんどん普及し始めました。万元戸(資産が100万元以上ある世帯)という言葉も、万元戸が普通になりすぎて死語となり、友達の家族を見渡しても家族に誰か1人は海外で暮らしていたりします。80後は貧しい時代と豊かな時代を両方、経験しています。そのせいか、豊かな時代になってもおカネを浪費してはいけないという価値観が刷り込まれています。

なので、80後以前の世代は、おカネや仕事に対してガツガツしています。おカネをたくさん稼いで家を買いたい、いい仕事について、いい暮らしがしたいという欲求がとても強い。

それが、90後になると、経済成長期とバブルしか経験していないので、おカネに対して執着しません。90後が育った時代は、1987年に始まった改革開放政策が沿岸地区に広く展開され、資本主義の仕組みが次々と中国社会に定着しました。90後が物心ついた2000年代以降は、パソコン、薄型テレビ、携帯電話などが爆発的に普及しました。また、90後の親たちは現在40代前半の人が中心で、中国で今、いちばんおカネを持っている世代です。さらに子どもは一人っ子。一人っ子政策以後に生まれた子どもを「小皇帝」と呼んだりしますが、まさに富裕層がただ一人の小さな皇帝に資産をどんどんつぎ込んでいます。

最近、夕方になると、上海のオフィスビルの前にはアウディ、ベンツ、フォルクスワーゲンなどの高級外車がずらりと並んでいます。私はデートのためにお金持ちの男性が女性を迎えに来ているのかと思いましたが、よく見てみると、90後の親たちが子どもを迎えに来ているのでした。別に帰り道が危険なわけでも何でもありません。かわいい子どもを早く保護したい一心なのです。

中国はもともと儒教の影響で、親は子どもの面倒をきちんと見て、子どもも親を大切にするという文化がありますが、それにしても、社会人になった子どものお迎えは少々度が過ぎているように私は思います。

EQに作用する粉ミルクが人気

もうひとつの背景には、親たちが教育方針を変えてきている影響も大きいと思います。私の子どもの頃はとにかく貧しかったので、「一生懸命勉強して、いい大学に入って、いい仕事をして、いい暮らしをしなさい」と教えられましたが、今はすでにおカネがあります。だから、「おカネではなく、豊かな人生を送ってほしい」と親が願うようになっている。これも、詰め込み教育からゆとり教育に変わっていった日本と同じ流れが起きています。

私の友人が幼児教育の教室を運営していますが、最近のお母さんたちには、知育系よりもクリエーティブ系や性格形成系のレッスンの人気が高いそうです。「IQを上げる」よりも「お絵かきをして創造力を上げる」「忍耐強くなる」「集中力を高める」といった教育が流行っている。

その変化は粉ミルクにも現れています。中国の企業の多くは、最大で4カ月の産休しか取得できないので、働くお母さんの子どもは粉ミルクを飲むのが必須です。粉ミルクを販売している会社は、どんな“成分”が入っているかを宣伝するわけですが、最近の高級粉ミルクは「うちはIQだけでなく、EQ(Emotional Intelligence Quantity、心の知能指数)にも作用する要素が入っている」とうたっています。

高等教育の面でも私の時代に比べて、選択肢の幅がずいぶんと広がっています。今も受験戦争はありますが、推薦入試やOA入試も増えてきているし、専門学校に行ってアート系の分野を学ぶのもすばらしいじゃないかという価値観が生まれている。外国に留学したっていい。ガリ勉で上に行ける人はガリ勉を続ければいいけれども、それができない人にも道がちゃんとある。そういうふうに変わってきています。

聞くところによると、上海の4大重点高校(上海中学、復旦付属、華師第二付属、交大付属)に通う高校生のうち、一般的な大学受験を受けるのはたった27%で、そのほかの生徒は海外の大学へ進学、もしくは推薦などで国内重点大学へ進学しているそうです。

このような変化の中で育ってきた90後は、自分の趣味や生活に対する関心が強く、感受性が豊かです。一方で、おカネや出世に執着しない分、仕事に対して主体性がなく、ガッツが足りないという特徴が見られます。景気の減速も影響しているのか、仕事に対する安定志向が強まっています。

80後の人たちは現在、24~33歳で、これまでに平均6回ほど転職していますが、今後はいい転職先が少なっていくので、転職の回数が減っていくかもしれません。同じ会社にいたとしても、昇給が以前は1回につき、2割ぐらいアップしましたが、上げ幅がだんだん小さくなっています。要するに、うまい話が少なくなっている。ベンチャー志向も弱まっていて、リスクをあまり取りません。

近年、毎年春節(旧暦の正月)の時期が過ぎると、地元に帰省した出稼ぎ労働者が帰ってこないと労働集約型の工場が嘆いている映像をメディアが報道しています。昔は農村から都市に来て工場で働けば、収入が5倍になったので、仕事がどんなにつまらなくても、とりあえず3年ぐらいは働いておカネをため、田舎に戻って家を建てようとしました。あるテレビ番組で、「給料を上げたのに、なぜ戻ってこないのか?」と取材していました。90後の草食化は、農村にまで波及しているのです。

中国のモデルチェンジを促す力に?

このような90後世代は、今後の中国にどのような影響を与えていくのでしょうか。

中国はこれまでずっと労働集約型の工場を作り、製品に付加価値をつけて輸出するモデルが中心でした。しかし、農村の90後も労働集約型の工場で働くことを嫌うようになってきて、今後、ますます働き手が少なくなっていった場合、李首相が目指す7%の経済成長をどうやって維持するのか。賃金コストが高まり、世界の工場としての地位が揺らぎつつある中、李首相は「労働集約型の成長モデルからのシフト」も目標に掲げました。

確かに「90後」の草食系の若者は、甘やかされて上昇志向がありません。しかし価値観が多様化し、社会を違う面からとらえようとしている分、実はモデルチェンジを促進する役割を果たすかもしれません。特にデザイン、アート、独自のセンスというようなことを価値にした事業を作るうえで、ポテンシャルを秘めた人材である可能性があります。

次回は経済成長モデルの転換に、同じく人材面から大きく影響を与える中国の帰国子女組の生態についてご紹介していきたいと思います。

リソース:東洋経済

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