2012年12月17日月曜日

ブランド力がモノを言う中国消費市場で日系企業が捨てなければならない“こだわり”とは

中国消費市場は「商品力」より「ブランド力」

中国の消費市場では「良いもの」よりも「有名なもの」が売れる。つまり、中国で商品やサービスを販売するためには、商品力以上に「知名度」や「ブランド力」が重要となる。そしてその知名度やブランド力を手に入れるためには、かなりの「カネ」と「時間」が必要になるというのは、中国ビジネスの常識である。

そんな中国消費市場に進出している多くの日系企業は、良くも悪くも「マーケティング」よりも「商品力」を優先しているため、うまくブランド作りができていない。中国で日系企業が使う広告宣伝費は、競合となる欧米・中国ローカル企業と比べて1桁以上少ないことも珍しくない。

その結果として10年以上中国でビジネスを続け、比較的資金力がある日系大手企業ですら、「ブランド力」に関しては、欧米企業、中国ローカル企業の後塵を拝しているのが現状だ。

そのような状況のなかで、後発かつ投資できる資金に制約がある日系の中小企業が、中国でゼロから自社商品・サービスのブランディングを行い、ヒットを狙うのは、(よほど中国でニーズがあり、かつ競合と差別化されている商品・サービスを除き)ビジネスというよりは、博打に近い行為とも言えるだろう。

過信は禁物!中国へは胸を借りるつもりで進出せよ

では、これから中国に進出する(または進出して間もない)日系中小企業には、中国消費者市場でビジネスを拡大するチャンスはないのだろうか。

もちろん、日系中小企業にも中国で勝てるチャンスはある。大相撲で舞の海が活躍したように、曙や武蔵丸でなくても、自分よりも大きく力のある相手に勝つことは可能だ。しかしそのためには、まず自分が曙や武蔵丸ではなく舞の海である(=ガチンコで戦ったら不利である)ことを認識した上で、知恵を絞って戦い抜く必要がある。

日本である程度成功した中小企業経営者の中には、このことを忘れている方が少なくない。実際に後発ながら中国市場で急速に成長している企業の事例を見ていると、(日系中小企業でも活用できる)中国市場の攻略法があることが分かる。今回はその中の1つである「コバンザメ戦略」について紹介しよう。

台湾系カフェが使った超有名ブランドの力

自社および自社商品にブランド力がなく、かつ自力でブランドを築くカネと時間がなくても諦める必要はない。コバンザメのように、既にブランド力がある会社の力を借りれば良いのだ。ただ問題は、ブランド力があり快く手を貸してくれる会社など、そう簡単に見つからないということだ。ましてや、自らと競合関係にある同業界の有名会社であればなおさら難しい。

ではどうすればいいのだろうか。その解決策の1つが「相手に許可を取らずに勝手に利用してしまおう」という作戦だ。もちろん、勝手にニセモノを作って売るというような違法行為を勧めているわけではない。具体的にこの作戦をうまく使ったカフェ、ベーカリ―業態を営む台湾系の「85度C」の事例を紹介しよう。

星巴克(スターバックス)の近くに出店し成功の足がかりをつかんだ「85度C」

85度Cが上海に進出した2007年には、既に圧倒的なブランドを築いていた競合カフェがあった。2000年から出店していた星巴克(スターバックス)である。そこで後発の85度Cが、先行する星巴克に追いつき、追い越すために取ったのが「競合である星巴克の知名度、集客力を逆に利用する」という作戦だった。

85度Cは、あえて星巴克の近くに出店し、星巴克に来るコーヒー好きな客に「あの新しい店はなんだ」と思わせることから始めた。そして新しい店(85度C)が気になった客に1回でも来店してもらい、「おいしいコーヒーが星巴克の4分の1程度の値段で飲める」ということを認知してもらい、一定割合の星巴克の客を奪ってしまったのだ。当然、この作戦以外にもいろいろなマーケティング戦略を駆使したのだが、競合である星巴克の力をうまく利用することで、85度Cは2011年12月末時点で中国260店舗体制まで拡大することに成功。同時期に星巴克は500店舗体制まで店舗網を拡大したが、上海では星巴克と並んで、誰でも知っているカフェブランドとなっている。

ブランド力と販売力に優れた中国企業は優良パートナーになり得る

もう1つ、別のコバンザメ戦略を紹介しよう。日系企業が自社商品を中国人消費者に販売する場合には、ブランド力があり集客力がある大手小売店舗(大手百貨店・ショッピングセンター・専門店、コンビニエンスストア、淘宝網などの大手Eコマースサイト等)で販売するのが普通だ。大手小売店舗のブランド力(信用力)を利用して販売するという意味では、他力を利用していると言えるのだが、これではまだ不十分だ。たとえ大手小売店舗の棚に商品を置いてもらったとしても、その棚の中でブランド力のある競合商品と戦うことになり、結局、自社商品のブランド力がなければ消費者に選んでもらえないからだ。

そこで、もう一歩踏み込んだ積極的なコバンザメ作戦として考えられるのが、商品そのものを大手小売ブランドとして販売するという方法だ。つまり自社商品を大手小売店舗にOEM供給し、既に知名度の高い小売ブランドとして商品を販売するのだ。そうすることで日系中小企業のブランド力の弱さが補完される。日本で言うならば、セブン&アイグループの「セブンプレミアム」やイオングループの「トップバリュ」などが典型例だ。

もしくは、大手小売店舗ではなく、大手競合メーカーのブランドとして(OEM供給品として)販売することも可能だろう。当然、自社の利幅は減り、商品戦略などの点で自由が利かなくなることはあるが、自社ブランド販売へのこだわりを捨て、既存ブランドの下に潜ることで、「量」の拡大を図ることができ、結果として事業を自社の実力以上に大きくできる可能性が見えてくる。

もちろん、商品によりOEM供給が難しい場合もあるだろうし、OEM供給先に技術・ノウハウを盗まれるリスクもあるだろう。当然そうしたリスクも考慮しなければならないが、「全て自前でやるという考えは捨てて、ある程度のリスクはあえて取りながら、うまく中国ローカル企業を利用して利益を拡大する」というアプローチは、日系中小企業こそ検討する価値がある戦略だ。商品力や技術力に優れた日系企業だからこそ、ブランド力、販売力に優れた中国企業は、最適なパートナーとなるはずだ。

日系企業がこだわりを捨てれば勝機は必ず見えて来る

実際、一部の日系企業でこのような動きが進んでいる。

2011年10月に発表された「三菱重工と中国家電量販大手の蘇寧電器の間での家庭用エアコン販売・アフターサービスの合弁会社設立」の話や、2012年1月5日発表された「住生活グループ傘下のLIXILと中国家電大手の海爾集団ハイアールが合弁生産会社を設立しシステムキッチンを生産する」というニュースも、こういった流れを想定したものだと思われる。

コバンザメ戦略は、中国ビジネスにだけ有効な打ち手ではない。日本でも古くからよく利用されている戦略だ。それにもかかわらず、日系企業が中国でうまくこの戦略を利用できていない理由は、「日本の常識が通じない中国ローカル企業の力をうまく利用することは難しい」と考えてしまうからだろう。

しかし、“アウェイ”の中国市場でそんなことを言っていては勝つことはできない。自社ブランド販売というエゴを捨て、中国ローカル企業の力を利用する以外にないと腹を括り前へ進めば、「後発」「カネ無し」「ブランド力無し」であっても、必ず成功への道は見えてくる。

リソース:ダイヤモンド

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